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市場動向 | | 9分で読めます

経営人材市場2026 ── 求められるスキルと採用トレンドの最前線

経営人材市場2026 ── 求められるスキルと採用トレンドの最前線

はじめに

経営人材の採用市場は、この数年で構造的に変化しました。 リモートワークの定着、生成AIの業務浸透、地政学リスクによるサプライチェーンの再編。 こうした環境変化は、企業が経営幹部に求めるスキルセットを塗り替えています。

経済産業省が2022年に公表した「未来人材ビジョン」では、将来の人材像として「問題発見力」「的確な予測」「革新性」が挙げられました。 この提言から4年が経過しています。 変化は予測を超えるスピードで現実のものとなりました。

この記事では、2026年の経営人材市場で実際に起きている3つの変化を解説します。 データと具体事例を交えて整理し、企業・個人双方に役立つ内容をお届けします。

この記事のポイント

  • AI活用は「導入」から「成果創出」へ。経営幹部の選考基準が変わった
  • PL責任の経験が経営人材の「必須要件」に格上げされている
  • 業界・職種をまたぐ「越境経験」の市場価値が急上昇中

「AI活用の解像度」が経営幹部の選考基準に加わった

「AI活用の解像度」が経営幹部の選考基準に加わった

グローバルで進むAI導入と経営層への期待

マッキンゼーが2025年に公表したグローバル調査「The State of AI」の結果は示唆的です。 AIを1つ以上の事業機能で活用している企業の割合は 78% に達しました。 前年は72%であり、さらに同年11月の続報では 88% にまで上昇しています。

しかし注目すべきは、導入と成果の間の大きなギャップです。 同調査では、AIがEBIT(利払前・税引前利益)の5%以上に貢献していると回答した企業はわずか 約6% でした。 AIを導入しただけでは差別化になりません。 経営レベルでAIを成果に結びつけられる人材 が決定的に不足しているのです。

この流れは日本でも顕著です。 PwC Japanグループの「CAIO実態調査2025」は、売上高500億円以上の企業を対象としています。 課長以上1,024名への調査で、最高AI責任者(CAIO)を設置する企業が増加傾向にあることが示されました。 AI戦略の責任を経営幹部レベルに引き上げる動きが加速しています。

企業が見ているのは「技術力」ではない

経営幹部に求められているのはプログラミングスキルではありません。 実際に選考で問われるのは以下のような観点です。

評価軸 具体的な問い
戦略判断力 自社の事業プロセスのどこにAIを適用すべきか、ROIを含めて構造的に判断できるか
組織変革力 AI導入に伴う業務再設計・人員配置・リスキリングをマネジメントできるか
リスク管理力 AIの限界やリスク(ハルシネーション・データプライバシー・著作権)を経営判断に織り込めるか

採用現場の実感として、COOやCFOの選考で実践的な問いが増えています。 「自社のバリューチェーンにAIを導入するならどの工程から着手するか」といった質問です。 「AIについて語れる」のではなく「AIで成果を出した経験がある」ことが、候補者の明確な差別化要因 になっています。

こうした変化の中で、自身のキャリアを主体的に設計する姿勢がますます重要になっています。 キャリアを「待つ人」と「創る人」の違いについても、ぜひ参考にしてください。

PL責任の経験が「必須要件」に格上げされた

PL責任の経験が「必須要件」に格上げされた

資金調達環境と投資基準の変化

PL(損益)責任の経験が、経営幹部ポジションで以前にも増して重視されています。 背景にあるのは、資金調達環境の構造的な変化です。

日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の投資方針アンケートは、この傾向を裏付けています。 会員VCの約9割が投資方針を「現状維持もしくは増加」としています。 一方で、投資判断ではユニットエコノミクスや収益性を重視する傾向が強まっています。 「赤字でも成長していればよい」時代は終わりました。 PL管理能力が経営者の基本スキルとして再定義されつつあります。

東証の要請が企業の経営人材ニーズを変えた

もう一つの大きな要因は、東京証券取引所による要請です。 「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」が求められています。 2025年7月時点で、プライム市場の 44% 、スタンダード市場の 59% がPBR1倍割れの状態です。 企業は不採算事業の整理や資本効率の改善を急いでいます。

この流れはM&A市場にも表れています。 レコフデータの統計(MARR Online)によると、2025年1〜9月のM&A件数は 3,694件 です。 前年同期比6.3%増で、2年連続で過去最多を更新しました。 事業ポートフォリオの再編が加速する中、撤退判断を含む経営意思決定ができる人材が求められています。 すなわち、PL責任の実務経験を持つ人材への需要は高まる一方です。

人的資本経営やIPO準備における経営人材の重要性については、人的資本経営とIPO準備の実務ポイントでも詳しく解説しています。

PL責任の経験がないまま40代を迎えると、経営幹部市場での選択肢が大きく狭まります。 規模は問いません。 30代のうちに事業部単位やプロダクト単位でPLを持つポジションを経験しておくことが、キャリアの重要な布石になります。

「越境経験」の市場価値が急上昇している

「越境経験」の市場価値が急上昇している

なぜ今、越境人材が求められるのか

業界・職種・地域をまたいだ 越境経験 が、経営人材としての評価を大きく左右しています。 単一業界で長年キャリアを積んだベテランよりも、複数業界を横断してきた人材が高い評価を受けています。 エグゼクティブ採用の現場で、越境人材に高い報酬が提示されるケースが増えています。

企業がこの経験を重視する背景は明確です。 前述のM&A件数の急増が示すように、事業ポートフォリオの再編は日常化しています。 異なる業界の事業を統合し、カルチャーの異なる組織をまとめ上げる必要があります。 一つの業界の常識に縛られないリーダーシップが不可欠です。

また、経済産業省の「未来人材ビジョン」が指摘したように、今後求められるのは「問題発見力」と「革新性」です。 これらの能力は、異なる文脈を経験してきた人材にこそ備わりやすい資質といえます。

評価される越境パターン

企業が特に高く評価している越境パターンは以下のとおりです。

越境パターン 評価される理由
大企業 → スタートアップ → 大企業 ガバナンスとスピードを両立できる
国内事業 → 海外拠点責任者 → 国内経営幹部 グローバルオペレーションの実務知見がある
事業部門 → コンサルティング → 事業部門 戦略策定と現場実行の両方の視点を持てる
異業種間の移動(例: 金融 → ヘルスケア) 業界の常識にとらわれない意思決定ができる

30代でのキャリアチェンジを検討されている方は、30代のキャリアチェンジ成功のポイントもあわせてご覧ください。

越境がもたらす具体的な価値

越境経験のある経営人材が評価される理由は「アナロジー思考」にあります。 ある業界では当たり前の手法が、別の業界ではイノベーションになり得るからです。

たとえば、SaaS企業が物流業界出身のCOOを迎えるケースを考えてみましょう。 SaaS業界では「機能追加で解約を防ぐ」アプローチが一般的です。 一方、物流業界で培ったオペレーション最適化の視点からは、異なる発想が生まれます。 顧客の業務フローに深く入り込むカスタマーサクセス体制の構築です。 業界外の視点を持ち込める人材を意図的に採用する企業が増えている のは、こうした実利があるからです。

エグゼクティブ採用の経験から申し上げると、越境経験が評価されるのは「転職回数が多い」からではありません。 各経験で得た知見を統合し、新しい環境で再現性のある成果を出せるかどうかが問われています。

よくある質問

Q. 経営人材市場で40代からでもキャリアチェンジは可能ですか?

可能です。 ただし、30代までに本記事で挙げた3要素のうち少なくとも1つを備えていることが前提になります。 40代からの挑戦では、既存の強みに越境経験やAI活用実績を掛け合わせる戦略が有効です。

Q. PL責任の経験がない場合、今からどう補えばよいですか?

社内で小規模でもPLを持てるプロジェクトや新規事業に手を挙げることが第一歩です。 副業やプロボノでの事業運営経験も、面接では一定の評価対象になります。 重要なのは「数字に対する責任を負った経験」があるかどうかです。

Q. AI活用の実績はどのようにアピールすればよいですか?

具体的な業務改善の成果を数字で語れることが最も効果的です。 「生成AIを導入してレポート作成工数を40%削減した」のような定量的な実績が評価されます。 技術的な詳細よりも、ビジネスインパクトを中心に整理しましょう。

まとめ

2026年の経営人材市場では、3つの要素が強く求められています。 「AI活用の実績」「PL責任の経験」「越境キャリア」です。 いずれも従来のリーダーシップやマネジメント力に加えて必要とされるものです。 一朝一夕には獲得できず、中長期的なキャリア設計の中で意図的に積み上げていく必要があります。

企業側にとっては、この3要素を踏まえた採用基準の見直しが急務です。 従来の「同業界・同職種の経験年数」に偏った要件定義では、本当に事業を前に進められる人材を見逃す可能性があります。 経営幹部の採用支援についてもご参照ください。

個人にとっては、自分のキャリアにこの3要素がどの程度揃っているかを把握することが重要です。 不足があれば30代のうちに補う行動を起こすことが、40代以降の選択肢を大きく広げます。 キャリア面談で客観的な市場価値の把握から始めるのも有効な一歩です。

MK2(エムケーツー)では、経営幹部・プロフェッショナル人材に特化した人材紹介を行っています。 こうした市場の構造変化を踏まえたキャリアアドバイスと、最適なマッチングを提供しています。 「自分の市場価値を客観的に知りたい」「採用基準を今の市場に合わせてアップデートしたい」といった段階からのご相談も歓迎しています。 まずはお気軽にお問い合わせください。

WRITTEN BY

森川 太輔

エムケーツー株式会社 代表取締役

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